『悉く謙遜と柔和と寬容なる心を以て行ひ愛を以て互に忍び 平和といふ繫の中に務て靈の賜ふ所の一なるを守るべし 體は一 靈は一なり』(エペソ四・二〜四)
『賜は殊なれども靈は同じ …… 凡て此等の事を行ふ者は同く一靈なり 彼その心のまゝに各人に頒與るなり …… 我儕みな一靈に在てバプテスマをうけ一の體となり又みな一の靈を飮り』(コリント前書十二・四、十一、十三)
パウロはエペソ書の初めの三章において、教会のかしらであることがキリストの栄光であること、また教会が聖霊の住みたもうキリストのからだであり、聖霊によって成長して神の住みたもう所となり、やがて神のあらゆる富によって満たされるようになることが、教会に与えられた神の恵みの栄光であることを説きました。こうしてパウロは信ずる者を、天における彼に定められた場所であるキリストの内に隠された生命にまで引き上げてみせた後、本書簡の後半においては、彼とともに地上における実生活にくだり、いかにしてその召しにかなう歩みをなすべきかを教えます。この生活と地上の歩みに関連してパウロが最初に伝えなければならなかった教えは、聖霊が信者を天なるキリストに結び付けているだけでなく、地にあるキリストのからだにも結び付けているのであるという基盤的真理です(エペソ四・一〜四)。聖霊は天にあるキリストと地にある信者のうちにのみ住みたもうのではありません。とりわけキリストのからだとそのすべての肢体のうちに住みたまいます。そして聖霊の完全で正常な働きは、各信者と、その人が知る限りの、また交わりを持つ限りの、キリストのからだ全体とのあいだに正しい関係が成り立っているところにおいてしか、始められないのです。したがって信者はきよき歩みを続けるために、聖霊による一致を保つように努めるということにまず気を配らなければなりません。もしこの聖霊による教会の一致ということが厳に守るべきこととされているならば、キリスト者生涯の第一の特質は謙遜と柔和であるはずです(二、三節参照)。すなわち各人が他者のために自己を否定し、数々の行き違いや至らなさもある中で愛にあって互いに忍耐し合うということであるはずです。そして新しい契約が守られ、他者のために自己を全く献げるキリストの霊──愛の霊──がその幸いな働きを十全になすことができるようになっていることであるはずです。
このような教えが必要とされる実例を、コリント前書の中に見ることができます。コリントの教会には聖霊のみわざがありあまるほどに働いていました。聖霊の賜物を明らかに見ることができました。しかし聖霊の愛がありませんでした。彼らは賜物は多様であっても聖霊は同じであることを理解しませんでした。あらゆる違いの中でその一人ひとりに同じ一つの聖霊が思いのままに与えたもうということ、全員が一つの聖霊に対して洗礼を授けられ、一つのからだになるべく、一つの霊を飲まされているということを理解しませんでした。彼らはもっと優れた道を知りませんでした──聖霊の賜物の中で至高のものは、自分のものを求めず他者のうちにのみその生命と幸福とを見出す愛であることを知りませんでした。
聖霊の導きに自分自身を完全に明け渡したいと願っている信者にとっては、聖霊による一致は豊かな霊的祝福に満ちた真理であります。また聖霊の内住がもたらすすべての働きを経験したいと願っている教会全体にとってもそうです。以前の著書の中でわたしはたびたび、ストックマイヤー師の「あなたのうちの霊の働きに深い敬意を抱きなさい」という言葉を引用しました。この命令はしかしそれと相補的な第二の命令を伴います。「あなたの兄弟のうちの霊の働きに深い敬意を抱きなさい」という命令です。これは簡単なことではありません。他のことには熟達しているキリスト者でさえしばしばこの点で失敗します。しかしその原因を見つけることは難しいことではありません。教育に関する本を見ますと、差別の能力──違いに気づく能力──は子供がまっさきに身につける能力の一つであると書いてあります。それに対して協調の能力──違いがある中に存在する調和に気づく能力──はもっと高度なものであり、あとから発達します。その最も優れた働きである組織化の能力は、真に非凡な者のうちにしか見出されません。このことは、キリスト者生活と教会とに最もよくあてはまります。私共は他のキリスト者や他の教会との間に違いを見つけたり、見解の相違をめぐって反目したり、他の人々の教理や活動における誤りを裁いたりするために、特に恩寵を必要としません。しかし私共を試み悲しませるような行為や、非聖書的で有害とも思われるような教えの中にあってなお私共が聖霊による一致を常に保ち、分裂と見える状態に直面しながら生ける一致を保たしめる愛の力を信じることができるとすれば、これは真の恩寵であります。
聖霊による一致を保ちなさい。これは神がすべての信者に与えたもう命令です。これは、互いに愛し合いなさいという命令を、その愛に生命を与えるところの聖霊にまでさかのぼることで、新しい言葉で言い直した命令です。互いに愛し合うべしとの命令に従いたいのであれば、それは聖霊による一致を意味していることに注意しなければなりません。ほかにも信仰告白における一致、儀式における一致、教会の一致や選択の一致などもありますが、これらにおけるつながりは聖霊によるものというより肉によるものです。聖霊による一致を保ちたいのであれば、以下に述べることを記憶しなければなりません。
まず、一致がその結び付ける力を得、勝利を得ることができるのは、あなたのうちにある聖霊によってであるということを知るように努めなさい。あなたのうちにある自己や肉に由来する能力は、この世的な一致を作り上げるためには優れた働きをしますが、聖霊による一致のためには大きな障害となるのです。あなた自身の力や愛によってはあなたは真に愛することができないこと、あなた自身に由来するものはすべて利己的であって真の聖霊による一致には何の役にも立たないことを認めて告白しなさい。ただあなたのうちにある神のみが、あなたにとってありがたく思えないものとの一致を実現することができます。このことを思ってへりくだりなさい。あなたのうちに神なる霊がおられるという事実に感謝しなさい。聖霊は自己を征服し、愛すべきとは見えないものをも愛したまいます。
あなたが一つにならなければならない兄弟姉妹のうちに霊があることを知り認めるように努めなさい。あなた同様、その人においても、そこにあるのは聖別された生涯のごく始まり、隠された種子に過ぎず、それはしばしば試練と不和をもたらす肉的なるものに取り囲まれています。私共は自分が無価値なものであるという事実によってへりくだらされた心、兄弟姉妹を愛し躊躇なく赦す心を必要とします。というのはイエスが最後の晩におっしゃったように『その靈には願ふなれど肉體はよわきなり』(マタイ二十六・四十一)とあるとおりだからです。私共は兄弟姉妹の中にある父のかたちと霊のしるしに目を留め続ける必要があります。その人自身の中におけるありようではなく、キリストにおけるありようをもってその人を見なければなりません。あなたがその人のうちに、あなた自身も無償の恩寵により受けた同じ生命と霊が宿っていることに気がつくほどに、肉に由来する偏見と愛の欠如とに打ち勝って聖霊による一致が実現されます。あなたにある聖霊が兄弟姉妹にある聖霊を認めて交わりをもつことによって、天に由来する生命の一致へとあなたは結び付けられるのです。
聖霊による一致を保って交わりを積極的に実践しなさい。私共自身の肉体の各部分の間の結びつきは、血液とそれが運ぶ生命との循環によって生きた現実のものとなります。『我儕みな一靈に在てバプテスマをうけ一の體となれり』(コリント前書十二・十三)、『體は一 靈は一なり』(エペソ四・四)。内的な生命の一致は、外的な愛の交わりによって目に見えるものとされ、強められなければなりません。考え方や奉仕においてあなたと同じようではない人たちとも交わりを養い育てなさい。そうしないと聖霊による一致ではなく肉による一致になってしまうからです。他の信者たちについて考え判断する時には、邪惡な思いをまったく含まない愛を実践するように努めなさい。神の子供の誰かについて、あるいはそれ以外の人についても、不親切な言葉を言ってはなりません。信者一人ひとりを愛しなさい。ただしその人があなたと気が合ったりあなたを喜ばせるからではなく、父の聖霊がその人の内にも宿っているから愛するのです。あなたのまわりにいる神の子たちのための愛と奉仕に、目に見えるように明確な意志を表して献身しなさい。無知あるいは弱さあるいは頑なさのために自分が聖霊を持っていることがわからず、聖霊を悲しませているような神の子たちであったとしてもです。神の住まいを建て上げることが聖霊のみわざです。あなたのうちにいます聖霊がそのみわざをなすために自分を献げなさい。兄弟姉妹のうちにおられる聖霊との交わりはあなたにとってなくてならないものです。その人にとってのあなたについても同じことが言えます。このことを認め、愛による一致のうちに兄弟とともに成長することを願い求めなさい。
神の教会の一致を求めて神の御前に献げられるとりなしの祈りに加わり声を合わせなさい。大祭司なるイエスがすべて信ずる者のために祈った『此はみな一にならん爲なり』(ヨハネ十七・二十一)というとりなしの祈りを引き受けて継続しなさい。教会はキリストの生命と聖霊の愛とにおいて一つですが、聖霊による一致がまだ形に表れてはいません。それゆえに一致を保ちなさいという命令が必要なのです。全地において、すべての教会と信者の交わりにおいて、聖霊が力をもって働かれることを神に祈りなさい。潮が引いている時は、生きものたちが住む小さな潮だまりは他の潮だまりから岩塊によって隔てられています。潮が満ちてくると水はそれを乗り越え、すべての潮だまりが出会って一つの大海となります。キリストの教会もこれと同じです。約束に従って神の聖霊が来られる時には、ちょうど乾いた地に水が満ちるように、それぞれの人は自分の内にも他の人々の内にも力が働いていることを知るようになり、聖霊を知りあがめるようになるとともに、自己は消え去ります。
この不思議な変化はどのように起るのでしょうか。『彼等をして一に全ならしめ且爾の我を遣しゝこと又なんぢ我を愛する如く彼等をも愛することを知しめん』(ヨハネ十七・二十三)との祈りはどうすれば速やかに答えられるのでしょうか。私共一人ひとりがまず自分から始めねばなりません。神に愛されている子である皆さん、どうぞ今、内住の聖霊を有し、知っていることとが、あなたの生涯に与えられたただ一つのしるしであり神の子たる証拠であることをはっきり覚えてください。あなたはあなたを喜ばせるものとではなく、またあなたの思考や行動の様式と調和するものとでもなく、あなたの内なる霊が他者のうちに見かつ求めるところのものと一つになるべきです。そのためにはあなたは自分自身を聖霊の思考と行動の様式に完全にゆだねなければなりません。そしてそのためには、聖霊があなたの全存在を制御しなければなりません。あなたは聖霊があなたのうちに住まいたもうという生き生きとしたやむことのない意識の内にとどまらなければなりません。父がその栄光の富に従って聖霊の力によってあなたの内なる人を強くしてくださるように、絶えることなく祈らなければなりません。父があなたに聖霊を遣わし聖霊があなたのうちに住んでおられるという三位一体の神に対する信仰にあなたがとどまる時、また神の御座の足もとで神を見上げる信仰にとどまる時、そして父と子との直接のつながりと交わりのうちにとどまる時、その時に、聖霊が完全にあなたを所有してあなたの全存在に力を及ぼすでありましょう。内住の聖霊が完全にあなたを満たすほどに、聖霊の働きが大きくなるほどに、あなたの存在はいっそう真実に霊的なものとなり、自己は全く退き、キリストの霊があなたを用いて信者たちを建て上げて一つの神の家へと結び合わせたまいます。キリストの霊はあなたの内にあって聖なる油そそぎとなり、聖別の油となって、あなたを選び分け、あなたをキリストのような者、父の愛の伝達者にふさわしい者となしたもうでありましょう。あなたが日々謙遜のうちにとどまり、教会内の対立と困難の中にあって愛による忍耐のうちにとどまり、すべて助けを必要とする人々を見出して手を差し伸べる同情心と自己犠牲とのうちにとどまるなら、あなたは聖霊があなた自身にあるのと同様に教会の肢体たるそれぞれの信者のうちにもとどまっていることを、聖霊があなたに示してくださいます。そしてあなたを通して聖霊の愛が、教導と祝福にあずかるべき周囲のすべての人々にまで及ぶようになります。
貴き主なるイエス様、あなたの地上での最後の夜における弟子たちのための祈りの一つは『聖父よ …… 我儕の如く彼等をも一になし給へ』(ヨハネ十七・十一)というものでした。あなたの一つの願いは、彼らが唯一の力ある手である愛によって集められ保たれて一つの群となることを見ることでした。主イエス様、今あなたは御座にあり、私共は同じ祈りを携えて参ります、私共が一つであるように私共を保ちたまえと。偉大な大祭司であられるイエス様、私共が完全に一つのものとなるように私共のために祈ってください。そのことによって、父があなたを愛されたように私共をも愛しておられることを世が知るようにしてください。
貴き主よ、あなたはあなたの教会に、あなたの民が一つであることを世にあかしする願いを呼び起そうとしておられます。そのことを示されましたゆえに感謝いたします。私共は祈ります、どうぞこの目的のために聖霊が力をもって働きたまいますように。信者の一人ひとりが自分のうちにおられ兄弟のうちにもおられる聖霊を知りまつり、交わりをもつすべての人との間に聖霊の一致を、へりくだりと愛とをもって保つことができますように。教会のすべての指導者と教師たちが、信仰箇条の一致や教会秩序のような人間的な紐帯よりも、聖霊によって一つになることができるように、彼らを上からの光で照らしてください。
主イエス様、私共は祈り求めます、どうかあなたにある人々を、祈りの一致のうちに栄光の御座の前に引き寄せてください、そしてそこであなたが各人に対して臨まれるのと同様に皆のうちに臨在していることを啓示するために、聖霊を与えてください。あなたの霊によって私共を満たし、私共が一つになるように、一つの霊、一つのからだとなしてください。 アーメン
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