第 二 章 



 神の子が世にくだりたまいまして、何処どこに最初に栄光をあらわしたまいますかならば、神の宮殿みやではなく、かえって家庭のうちでありました(十一)。なぜならば家庭は神の真正ほんとう宮殿みやであるからであります。

 しゅは水をもって葡萄酒ぶどうしゅを造りたまいました。この奇蹟を見ますならば、人間の喜楽よろこびくなる時に、神はご自分を顕して充分なる喜楽を与えたまいます。いま葡萄酒の失くなりし時に、造化の主が顕れて新しき葡萄酒を造りたまいました。主の奇蹟の主意はつねに同じことです。すなわち人間の力も望みも尽きました時に、その失敗のうちに働きて、神の栄光を顕したまいます。或いはその失敗を癒し、或いはその失敗によりて新しきことを造りたまいます。そは主の力は生まれ変わらすことであるからです。人間は罪のために己をけがし、死にたる者でありました。主はこの死にたる者のために地にくだって、新たにこれを生みたまいます。あたかも葡萄酒の尽きたる時に新しきものを造りたまいましたと同じことです。三章の新たに生まれることの話、四章のサマリアの女の話も、皆その道理は同じことです。かのサマリアの女は何程なにほど自分で悶躁もがきましても安心を得ることができません。ただ煩労の生涯でした。そのときに主はご自分を顕しまして、その女に新しき生命の泉を与えたまいました。そのほか主の奇蹟を見まするならばことごとく同じことであります。

一〜三節

 十一節を見ますならば『イエスは、この最初のしるしをガリラヤのカナで行って、その栄光を現された。それで、弟子たちはイエスを信じた』と記してありますから、これは第一の奇蹟にしてかつ奇蹟のしゅなるものであると思います。主が新しき天地を創造つくりたもう時にも、これと同じようになしたまいます。すなわち罪にけがれ果てたるこの世を変えて、聖なるきよき天地となしたまいます。この奇蹟はただ小さきたねです。種が生長して実を結びまするならば、新しき天地を創造つくることができます。

 出エジプト四・九をご覧なさい。モーセは奇蹟によりて明らかに自分の神の使者つかいであることを顕しました。これはモーセの栄えです。いま主イエスもご自分は神より遣わされたる者なることを示し、その栄えを顕したまいます。その栄えを見たるヨハネは何と申しましたか。一・十四をご覧なさい。ああ私共も信仰のまなこを開かれてこの話を見ねばなりません。さればヨハネと同じ栄光を見ることができます。

 『三日目に』。主は三日前まではユダヤにおりたまいましたから、弟子数人とともにこの婚筵こんえんつらなりたまいましたのは意外でした。そうですから食事がそれほどに準備よういしてありませなんだ。『母がイエスに、「ぶどう酒がなくなりました」と言った』。これは真正ほんとう祈禱いのりでした。これとマルコ六・三十六をお比べなさい。『人々を解散させてください。そうすれば、自分で周りの里や村へ、何か食べる物を買いに行くでしょう』。これは自己おのれの心に従うて祈ったのです。この二つのうち、私共わたくしどもはいずれの精神をってよろしいでしょうか。弟子のごとく彼らを去らしめたまえと願いましょうか。またはマリアのごとく彼らに葡萄酒がありませんからどうかしてくださいと願いましょうか。私共はこのマリアのごとく、主の能力ちからを信じたいものです。マリアはこの時に奇蹟を求めませなんだでしたでしょう。けれども主が何とかしてくださると信じました。

四  節

 『婦人よ、わたしとどんなかかわりがあるのです』。これは原語を見まするならば失礼なる言葉ではありません。

 『わたしの時はまだ来ていません』。主はこの時にいまだ神の導きを受けたまいませんからこのようにおおせたまいます。七・八の『わたしの時が来ていない』と同じことです。その瞬間ときにはいまだ父から導きを受けたまいませなんだ。けれどもそれから直ちに父より導きを受けて祝福を与えたまいました。

 主がこの奇跡を行いたもうことができたのは、マリアの祈禱いのりによってでありました。主はこの時にさしあたりに救いを与えるように求められたまいました。そうして主はこの願いにこたえたまいました。私共はどのように小さいことでも主を仰いでその力を求めますならば、主は喜んで私共をたすけたまいます。主はそれによって栄光を顕したまいます。小さい田舎の婚筵こんえんにおいてわずかに葡萄酒の足らぬことくらいでも、マリアの願いを聴き入れてご自分の栄光を顕したまいました。そうですから私共も主の栄光の顕れるために祈らねばなりません。

五  節

 マリアは拒絶されました。けれども主の働きを待ちました。そうして信仰をもって主の働きのために準備よういしました。

六  節

 ユダヤ人はこの石がめのように外部の儀式と表面のきよめを与えることはできました。けれども主は人間を喜ばす葡萄酒を与えることができました。表面の宗教は表面を潔めます。主の宗教は心を潔めて喜楽よろこびを与えたまいます。

 神の働きの結果は何でありますかならば、喜楽よろこびです。喜楽は神の目的です。霊なる喜楽は決して藐視かろんずることはできません。神は喜楽のために人間を造りたまいました。喜楽のために聖子みこくだしたまいました。喜楽のために新しき天地を造りたまいます。神の前に喜楽は大切なるものです。

七  節

 『イエスが、「水がめに水をいっぱい入れなさい」と言われると』。主はご自分を隠して、その婚筵こんえんつらなる者のうちで最も卑賤いやしきしもべを撰びたまいました。それによって大いに教えられとうございます。神が教会の裡で栄光を顕したもう時は、牧師伝道師等の顕著あらわれたる者を用いたまわず、かえって度々その教会の裡で最も微賤ちいさき者を撰びたまいます。その人の一言ひとことによって、或いは祈禱いのりによって、大いなる栄光を顕したもうことがあります。私共もこの精神をちませねば、他人に葡萄酒を与えることはできません。

 『召し使いたちは、かめのふちまで水を満たした』。信仰の働きは第一に服従です。主に従いませねば恩寵めぐみを受けることはできません。私共の信仰はたびたび主を己に従わせ奉ることとなりませんか。己の心に神を従わしめることになりませんでしょうか。どうかこれについて考えて見とうございます。直正ほんとうの信仰は神の尊旨みこころに従うことにあると思います。

八  節

 しもべは信仰に従うて自分のなすべきだけの働きを全備まっとうしました。私共はたびたびこれは神の働きであって自分の働きではないと申して怠慢おこたりに陥ります。たとい自分が怠っておっても、神がよろしきように働きたもうと誘惑いざなわれます。けれどもこれは誤謬あやまりであると思います。直正ほんとうの働きは、このしもべのごとく自分の働きを全備まっとうしたるのちに、静かに神の働きを待ち望むことであります。

 『召し使いたちは運んで行った』。しもべは信仰をもって主の命令に従い、いま汲みしだけにて未だ葡萄酒に変わらざる水を渡しました。これは人間のより見ますればまことに愚かなることのようです。けれども信仰をもってその命令に従いました時に、主の祝福が加わりてその水が酒に変わりました。伝道も同じことです。表面よりこれを見まするならば実に愚かなることのようです。けれどもこのしもべのごとく信仰をもって働きまするならば、伝道の愚かなるをもって人間の渇きを飽かしめることができます(コリント前書一・二十一)。

九  節

 この働きを致しましたのは人間の目より見ますればしもべですが、実は主がご自分を隠して働きたまいましたのです。ピリピ三・二十一をご覧なさい。『キリストは、万物を支配下に置くことさえできる力によって、わたしたちのいやしい体を、御自分の栄光ある体と同じ形に変えてくださるのです』。しもべがこの働きを致しました時に主も隠れて働きたまいました。ただいま伝道に同じことを見ます。私共が伝道を致しまする時に主が隠れて働きたまいます。そうですから人間に誇るべきところはありません。主に栄光を帰せなければなりません。もし私共は主とともに働きませねば何の力もありません。私共の働きは一切すべては無益であります。かの葡萄酒のくなりし時に、主が新たに造って人々に飲ましめたもうたるごとく、伝道も同じ働きです。私共の四周まわりには渇く客がたくさんあります。盃の空虚からになりました客が多くあります。私共はそういう人々に新しき葡萄酒を与えなければなりません。私共はたとえ単独ひとりでも智慧ちえの水が与えられましょう。道徳の水が与えられましょう。これらの水を与えることは或いは人間の力だけでもできましょう。けれども真正ほんとうの水、彼らの渇きを飽かしめる天国の葡萄酒を与えることは、主と一つでなければできません。私共は他人と談話はなしまするときに主と一つですならば、その人は私共の言葉を聞きて満足を得ます。説教しまする時に主と一つですならば、私共の言葉の水が途中において天国の葡萄酒とります。

 『水をくんだ召し使いたちは知っていた』。主と共に働きたるしもべはその事情をりました。私共は主と共に働きまするならば、主の働きの奥義を知ることができます。この婚筵こんえんつらなりたる客は葡萄酒を飲みましたから幸福さいわいです。けれどもこれを与えたるしもべはなおなお幸福さいわいでありました。そは主の働きたもう順序の奥義を知ったからです。もしも福音を受け入れるなら幸福さいわいです。けれども福音の宣伝者は主の働きたもう順序の奥義を知ることができますから、最も幸福さいわいであると思います。

十、十一節

 神の順序と世の順序とは常に反対です。神は順次しだいき葡萄酒を与えたまいます。肉にける者の生涯を見まするならば、青年の時代は喜楽よろこびに充たされている人でも、老年になるに従いて漸次だんだん衰弱おとろへて参ります。霊に属ける者の生涯は反対です。進むに従うていよいよ力を受けて、ついに全く聖潔きよき人となります。

 始めに主は卑賤いやしき客でした。人々は主にまなこけませんでした。けれども主の同情、主の恩寵めぐみ、主の権能ちからが解りました時に、主に眼を注くるようになりました。主はついに婚筵こんえんを司る者となりたまいました。教会においても始めは牧師司会者等にを注けますが、直正ほんとう集会あつまりになりますれば主イエスご自身に眼を注くるようになります。

十二〜十七節

 柔和なる主が一度はげしき所業しわざをなしたまいました。愛に富みたもう主が罪のために憤激してこの烈しき所業しわざをなしたまいました。これは考うべきことであります。主はご自分の宮の汚穢けがれねたみたまいます。主は世の中における人間のさまざまなる罪悪つみとその結果をご覧なさいました。けれどもこの時ほど烈しき怒りを発したもうたることはほかにありません。これは何故なぜですかならば、宮がけがされたからであります。父の宮が汚されますことは何よりも強烈ひどいことです。コリント前書三・十六、十七を対照してこのことを深くお味わいなさることを勧めます。ここで今一つのことをご覧なさい。主は殿みやきよめたもうことができます。幸福さいわいではありませんか。牛羊等は神のきよ殿みやを汚しましたのみならず、静かなる祈禱いのりの場所であるべき殿みやさわがしましたから、主はこれを潔めこれを静めたまいました。

十八〜二十二節

 主はここで奥義をもってこれらの人々に答えたまいましたのは、深意あることと思います。ユダヤ人は殿みやきよめられたることを喜ぶべきはずですのに、その心がけがれておりますから、かえって主に休徵しるしを求めました。そうですから主は奥義をもって答えたまいました。

 最も卑賤いやしきところより参りました一田舎漢いなかもの殿みやに入って、かくはげしき所業しわざによってエルサレムの商人に応対して、何故なにゆえに捕らわれなかったでしょうか。これ主の容貌に一種の栄光がありましたゆえと信じます(七・四十四十八・六)。

 主はまた自分の甦りを示したまいました。自分の権威は死と甦りよりきたることを示したまいました。一・十をご覧なさい。『ことばは世にあった。世は言によって成ったが、世は言を認めなかった』。主は世の造り主です。けれども世は罪悪つみに充ちておりますから主を識りません。『ことばは、自分のたみのところへ来たが、民は受け入れなかった』(一・十一)。ユダヤびとも主を信じません。悪魔が権威を奪いました。或いはユダヤ人の不信仰によって主の権威はありません。神がユダヤ人のうちくだりたまいますれば、ご自分の殿みやにおいて権威をつべき筈であるのに、有つことができませんから、死と甦りとによって権威を受けたまいます(使徒二・二十三、二十四三十二〜三十五ピリピ二・八、九)。主イエスの権力の源は死と甦りとです。主はこれによって新しき権力をうけたまいました。もちろん主はこの以前より権力を有っていたまいました。けれども死と甦りとによって新しき権力たまいました。以前よりもなおなお高く崇められたまいました。ユダヤ人はこれを弁えませんなんだ。けれども私共はそれを弁えることができます。その奥義を悟ることができます。

二十三節

 『イエスの名を信じた』。四・三十九四・四十一七・三十一十・四十二十一・四十五十二・十一にも主を信じたことを見ます。主の伝道は大いなる伝道でありました。
 『しるしを見て』これは信仰でありましたが、全き信仰ではありません。

二十四、二十五節

 『すべての人のことを知っておられ』。エレミヤ十七・九、十をご覧なさい。『心は萬物すべてのものよりもいつはる者にしてはなはあしし。たれかこれを知るをえんや。われヱホバは心腹しんぷくさぐ腎腸じんちゃうを試みおのおの其途そのみちしたがひその行爲わざによりてむくゆべし』。現今でも信者のうちに二つの種類があります。ある信者は主の名を信じましても全き信仰がありませんから、主はご自分をまかせたまいません。けれどもある信者はおのれに死にましたから、主はご自分を託せたまいます。これはペンテコステのみたまける信者です。



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