第十三 跛 の 癒
聖潔の力
此三章の始に跛の癒された話があります。二章に於て聖靈の降臨の事を見ました。又人々は聖靈に滿されて、新しき經驗を得た事を見ました。此三章の始に於て跛へたる者の癒された事によりて、神は私共に聖靈の能力を示し給ひます。又聖靈の能力を得ますれば、私共の中にどういふ結果が見えるかを敎へ給ひます。信者が聖靈を得ますれば、丁度跛へたる者が溢れる程の生を得て癒さるゝと同じ事であります。馬太傳八章を御覽なさい。同じ事であります。馬太傳五章 六章 七章に於て、山上の說敎で主は私共に潔き心の事を教へ給ひましたが、其が終って八章一節から癩病人が潔めらるゝ事を見ますが、主は是に由て私共に御自分の聖潔の力を教へ給ひます。即ち始に聖潔に就て說敎し、次に例を引いて其能力を表はし給ひます。
全國民の召
然れ共此使徒行傳三章は唯其許りでありません。此處で神はイスラエル全國民を悔改に招き給ひます。二章に於て神は一個人一個人に悔改を命じ給ひましたが、多の人は其聖聲に從って悔改め、大なる恩惠を頂戴しました。今神は一步を進めて、其全國民に悔改を命じ給ひます。神は忍耐を以てイスラエル人を取扱ひ給ひました。色々の方法を以て、其懷かしい國に聖聲を聞かしめ給ひました。又イスラエル人民が御子を殺しましても、神は其国を捨て給はず、二章に於てヱルサレムの有司の目の前に、奇しき御業をなし給ひました。又二章の終に基督信者の美はしい有樣によりて、其恩惠を示し給ひました。今新しい證據を立てゝ、イスラエル人の心を刺し、もう一度全國民に悔改よと言ひ給ひます。
悔改の結果
悔改めると何ういふ結果がありますかならば、第一に三章十九節『是故に爾曹罪をくい心を改て其罪の抹るゝことを爲よ 蓋主の前より安舒日の來り』。此安舒日といふ言は意味が少し弱う厶います。英語で Time of refreshing で、矢張リバイバルの時を指します。神は主イエスの死の爲にイスラエルを罸し給ひたう厶いません。却て其によりて、溢れる程の恩恵を與へ給ひたう厶います。眞のリバイバルの時を與へ給ひたう厶います。舊約全書に度々リバイバルが起るといふ約束があります。例へば詩篇七十二篇、以賽亞書三十五章、耶利米亞記三十三章、以西結書四十七章等に、さういふ約束が與へられました。神は今でも其約束を成就し給ひまして、イスラエルの國に眞正のリバイバルを與へ給ひたう厶います。
使徒行傳二章に於て、一個人一個人として聖靈に滿される恩惠を頂戴する事が出來ます、三章に於て一步を進めて、一般のリバイバル即ち一般の聖靈の働を頂戴する事が出來ます。私共も或時は二章のやうに說敎して、一個人一個人の爲に聖靈の聖潔と、聖靈の能力を宣傳ふる筈です。又或時は三章の說敎の通りに、一般のリバイバルは何處から起るかを宣傳へなければなりません。
又其許りでなく、第二に廿節に於て『且あらかじめ擬たまひしイエス・キリストの遣れんが爲なり』。イスラエル人が國民として悔改めますならば、其時こそ必ず主イエスが此世に再來り給ふ時です。
又第三に、廿一節に『萬物の復興ん時』が來る筈です。是は即ち新しき天と新しき地です。主が此世に於て聖國を擴め給ふ事です。さういふ美はしい結果があります。神の心の中にこんな考と、こんな目的がありました。神は第一にイスラエル、次に凡の人を祝福し給ひたう厶いました。三章廿五節『……地の諸族は爾の裔に由て福を獲んと曰給へり』。イスラエル人が若し其時に悔改めましたならば、神は地の諸族に幸福を與へ給ふたでせう。然れども頑固にして其を斷りました。却て自分の道を踏み、自分の心の考に從って神を敬ひましたから、凡てこんな恩惠を斷りました。
此章に於て一方から信仰の大なる力を見ます。即ち信仰によりて斯ういふ大なる恩惠を頂戴する事が出來ます。又他の方からは、不信仰の恐ろしい力、即ち不信仰によりて神の恩惠を防ぐ事が出來る事を見ます。神の救の能力に反對する事が出來ます。不信仰によりて此世の暗黑さと世の汚たる有樣が續きます。さういふ事を見ます。
祈禱の時
『第三時祈禱の時に當て』。祈禱の時、即ち神が奇しき御業を行ひ給ふ時です。神が聖聲を聞かしめ給ふ時、神が恩惠を下し給ふ時です。其に就て舊約の三の引照を引きます。
第一は列王紀略上十八章卅六節。是はエリヤがカルメル山の上に人々を集め、壇を築いて神の火を願った時です。『晩の祭物を献る時に及て』祈りました。是は祈禱の時でした。其祈禱が答へられて『時にヱホバの火降り』ました（卅八節）。祈禱の時は火の下る時です。神が祈禱に答へて火を下し給ふ時であります。
次に以士喇書九章五、六節。是は神がイスラエル人をバビロンの捕囚より救出して、歸らしめ給ふた時でした。然れども歸りました神の民が、もう一度神に反きて罪を犯しました。エズラは此處で、其罪を重荷として祈りました。格別に此五、六節に『晩の供物の時にいたり我その苦行より起て衣と袍とを裂たるまゝ膝を屈めてわが神ヱホバにむかひ手を舒て言けるは 我神よ 我はわが神に向ひて面を擧るを羞て赧らむ』。即ち懺悔しました。又神は其懺悔を受入れ給ひまして、其全國民に悔改を與へ給ひました。祈禱の時が懺悔と悔改の時でした。
終に但以理書九章廿一節を御覽なさい。此章の二節を見ますと、其時は救はるべき時でありました。神は其民を救出し給ふ樣に約束し給ひました。さうですから三節に於て、ダニエルは斷食をして祈りました。『是において我面を主ヱホバに向け斷食をなし麻の衣を着 灰を蒙り祈りかつ願ひて求むることをせり』。熱心に祈りました。又其祈禱を終に、十九節を御覽なさい、『主よ聽いれたまへ 主よ赦したまへ 主よ聽いれて行ひたまへ この事を遲くしたまふなかれ わが神よ 汝みづからのために之をなしたまへ 其は汝の邑と汝の民は汝の名をもて稱へらるればなり』。熱心な祈禱です。此一節の中に五つ六つの熱心な確實な祈禱があります。神は其樣な祈禱に答へ給ひました。『我かく言て祈りかつわが罪とわが民イスラエルの罪を懺悔し我神の聖山の事につきてわが神ヱホバのまへに願をたてまつりをる時 即ち我祈禱の言をのべをる時 我が初に異象の中に見たるかの人ガブリエル迅速に飛て晩の祭物を獻る頃我許に達し』（廿、廿一節）。然うですから祈禱の時は天使の來る時、祈禱の答を受ける時であります。ダニエルは其悟識が開かるゝ事を得ました時、三度『晩の祭物の時』と申しました。祈禱の時を祭物の時と申しました。其時はヱルサレムの神殿に於て、神の命、神の律法に從って、神の壇の上に羔を載せる時でした。私共の祈禱の力は何處から起りますかならば、十字架から起ります。エリヤは晩の祭物の時に祈って、其ヱルサレムの壇の上に載せられました祭物の爲に、天より火を得ました。エズラもダニエルも祭物の効能の爲に、祈禱の答を得ました。私共は祈る時に十字架の効能の爲に、其祈禱が答へられます。
此祈禱の答は何でありましたかならば、十三節（使徒行傳の方の）を御覽なさい。『イエス……を榮給へり』。神は何時でも主イエスを崇め給ふて、祈禱に答へ給ひます。格別に私共に幸福を與へる爲ではありません。主イエスを崇める爲に、祈禱に答へ給ひます。跛へたる者が癒された事によりて、主イエスが生きて居給ふ救主、力ある救主、祈禱に答へ給ふ救主であると示し給ひました。
イエスの名
度々此章に於てイエスの名といふ事が記してあります。六節『ナザレのイエス……の名により』。十六節に『イエスの名は其名を信ずるに
ペテロとヨハネ
『第三時祈禱の時に當てペテロとヨハネ共に殿に上しに』。此二人は心を合せて主の爲に働きました。三四年前に此二人は職業の仲間でした。路加傳五章十節を見ますれば『シモンの侶なるゼベダイの子ヤコブとヨハネも亦然り』とあります。此侶といふ字は、原語では友達ではありません。實業の仲間であります。又此二人は約翰傳一章を見ますれば、バプテスマのヨハネによりて多分一緖にヨハネのバプテスマを受けたと思ひます。四十、四十一節に於て、バプテスマのヨハネの集會に出た事を見ますが、多分其時二人はヨハネのバプテスマに與りましたでせう。而して其時から一緖に居りまして、又一緖に主に從ひまして、主の奇跡を見、主の敎訓を受けました。又終にペテロが三度主イエスを拒みました時に、ヨハネがペテロの其言を聞きました（約翰傳十八章十五節）。然れども約翰傳廿章三節を見ますと、ヨハネが其爲に友達のペテロを捨てませなんだ。其後一緖に主イエスの墓に參りました。又一緖に聖靈のバプテスマを受けました。今此處で心を合せて一緖に祈禱に參りました。
此時此二人は、格別に神が働き給ふ事を思って居なかったに相違ありません。唯自分の爲め、神を禮拜する爲に殿に上りました。神は度々思ひの外、聖靈に滿されし者を用ゐ給ひます。
神の賤しき器
『一人の生來なる跛あり』。四章廿二節を見ますれば、此人は四十歲餘になりましたから、永い間疾って居りました。今迄何にも役に立たない者でした。步く事は出來ず、働く事も出來ず、神殿に入る事も出來ません。神は此役に立たぬ、死んだやうな者を用ゐて、ヱルサレムを動かし給ひました。神は度々この樣に、其御能力を表はす爲に、賤しい者を取り給ひます。蟲の如き者を取りて御榮を表はし給ひます。以賽亞書四十一章十四、十五節を御覽なさい。
肉に屬ける信者の表號
又この跛へたる者は肉に屬る信者の表號であります。さういふ信者は神の義しい道を踏む事が出來ず、又自分の養を受くる事も出來ません。又神の殿に入る事も出來ません。神は近くに居給ひました。又神に到る爲に美くしい入口がありました。然れども神に到る事が出來ません。唯外に立って物を乞ふ事許り出來ました。
三節に於て『彼ペテロとヨハネの殿に入んとするを見て施濟を求り』。即ち唯幾分か其日々々の爲に養を貰ふ事を願ひました。神の目的は何でありますかならば、全き贖を與へ給ふ事であります。然れども私共は度々此跛のやうに、不信仰の祈禱を献げて、唯僅か許りの恩惠を求めます。併し神は全き聖潔と、全き能力を與へ給ひたう厶います。神は其時に、其人の思を越えたる恩惠を與へ給ひました。又何時迄も續く恩惠を頂戴しました。肉に屬ける信者が聖靈を得ますれば、丁度同じ通りであります。
癒されし跛の五の精神
癒されました人の心を尋ねますれば、其人に五の精神がありました。第一は信仰です。此人は必ず心の中に癒される事が出來るといふ信仰を有って居たに相違ありません。『イエスの名は其名を信ずるに由て』（十六節）。さうですから此人は信じました。馬太傳廿一章十四節を見ますと『瞽者跛者の人々殿に入てイエスに來りければ之を醫しぬ』とあります。是は神殿の庭に入ってイエスに來て癒されたのでありますが、此跛は多分其事を聞き、又其時癒された者を見ましたでせうから、心の中に今自分の癒を受けられるといふ信仰があったと思ひます。
又第二に此人は主イエスを信じました。ペテロは『ナザレのイエス・キリストの名により』（六節）と申しました。イエスは唯二ヶ月前に、十字架に釘られて死んだ人です。信じない人から見ますれば、何にも力のない人であります。然れどもペテロが其を言ひました時に、此人は主の名を信じて恩惠を得ました。又是から此人は大膽に主イエスを認はしました。
第三に十一節を御覽なさい。『その跛者ペテロとヨハネにすがり居し間』。又四章十節『此人健勁なる事を得なんぢらの前に立たり』。さうですから大膽に、迫害を頓着せずに、ペテロとヨハネと共に居りました。
又第四に此人の心の中に感謝の精神がありました。八節の終『神を讚美つゝ』。又第五にペテロとヨハネを愛する心がありました。神の使者を愛しました。今心の跛へたる者が、其心の中にかういふ精神がありますなれば、必ず全き恩惠を頂戴致します。
働人の七の精神
又ペテロの事を御覽なさい。ペテロは靈魂を捕へる人の模範であります。第一に愛の心を有て居ります。路加傳十章卅三節の善きサマリヤ人のやうに、傷を得た者を見て、是非其人を助けたう厶います。
第二にさういふ働人は、辨へる事が出來る目を有って居る者です。四節『ペテロ、ヨハネと共に熟々之を見て』。聖靈に滿されました者は、能力ある目を有って居ります。十三章九節『パウロ聖靈に滿され目を注て彼を視 曰けるは 噫すべての詭譎と奸惡にて盈てるもの 惡魔の子 すべて義事の敵よ』。パウロの目は斯んなに能力ある目でありました。ジョージ・フォックスが、或時路傍說敎をしました時に、其前に或ひどい罪人が立って其說敎を聞いて居ましたが、其說敎の中に呼はって『人よ御前の其眼を引抜いて置いてくれ、其を私が燒く』と申しました。私共は聖靈に由りて幾分か斯ういふ眼を有って居る筈です。十四章九節『パウロ目を注て其愈さるべき信仰あるを視』。私共は斯樣に心を辨へる眼を有って居る筈であります。
第三に斯る働人は、自分は能力を有って居るといふ事を認め、又其を配與ふる事が出來ると信ずる信仰を有って居る筈です。『われに有もの』、さういふ確信です。『爾に予ふ』、さういふ確信です（六節）。
第四に斯る働人は、今跛が癒されるといふ信仰を有ってゐます。『起て行め』（六節）。即ち此確信です。今山が取除かれて、今信仰の命令に從って跛が癒されるといふ信仰を有って居ます。馬可傳十一章廿三節の通りです。
又こんな働人は第五に、助ける事の出來る手を有って居ます。『其右の手を執』（七節）。神の爲に働きたう厶いますれば、又信仰の業を行ひたう厶いますれば、人間の手を度々使はねばなりません。主イエスは温かい人情を有って居給ひましたが、或働人は其がありませんから、人を助ける事が出來ません。
第六に、主イエスを認はす大膽を有ってゐます。此神殿に於て主イエスを認はす事は、實に危い事でありました。然れ共彼等は大膽に主イエスを認はしました。
第七に、そんな働人は謙遜を有って居ますから、少も自分が譽を得たくありません。『ペテロ之を見て民に答けるは イスラエルの人々よ、何故に此事を奇とするや 我儕が自己の能と德をもて此人を行しゝが如く何ぞ我儕に目を注るや』（十二節）。或基督敎の働人は八章九節の樣な心を以て主イエスの爲に働きます。『自らを大なる者としてサマリヤの民を駭かしゝ者あり』。然れ共聖靈に滿されました者は、凡の榮光を主に歸し奉りたう厶います。其働人は詩篇百十五篇を歌って傳道を致します。其詩篇百十五篇をペテロの說敎と比べますれば、終迄よく似て居ります。
私共は此二つの繪を以て、どうぞ同じ心を求めたう厶います。跛へたる者の心を有って居りますれば、全き救に與ります。ペテロの心を有って居りますれば、眞正に罪人を救ふて、神の奇しき御業を拜見する事が出來ます。
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