第十　聖書に循したがふ說明

新しき能力ちから

【十四、十五節】

　『此この人々は醉ゑへる者に非あらず』。然さうですからペテロの說敎の題は何なんであるかと申すなら、此この人々の前に立って居ゐる百廿人でありました。聖靈に滿みたされし敎會、目で見ゆる敎會がペテロの說敎の題でした。是これはよい題であります。哥林多後書コリントのちのふみ三章三節にあるやうに、此この人々はキリストの書ふみとなりました。未信者の前に神の聖書となりました。又エルサレムの罪人つみびとは、此この百廿人を見て幾分か神の聖言みことばを受くる仕度したくが出來ました。

【十六節以下】

　此この說敎で、ペテロが新しい能力ちからを得た事が解わかります。聖靈に滿みたされし人は、何時いつでもそんな能力ちからを頂戴します。其その能力ちからは何なんであるかと申せば、第一に聖靈の劒つるぎを使ふ事でした。十六節と廿五節を見れば、ペテロは聖靈の劒つるぎをよく使ふ事を得ました。聖靈の能力ちからを有もって居をらねば、其その劒つるぎを使ふ事は出來ません。子供は父の劒つるぎを使ふ事は出來ません、然けれども聖靈のバプテスマを得て、キリストに在ある大人となりました者は、此樣このやうに聖靈の劒つるぎを使ふ能力ちからを有もちます。

　第二に、其その眞理しんりを以もって罪人つみびとの心を刺します。ペテロは新しく其樣そんな能力ちからを有もちました（卅七節）。明あきらかに此この人々の前に、神の眞理まことと、神の道を示す事を得ました。

　第三に、イエス・キリストを示します。今迄いまゝで此この罪人つみびとはイエスの榮光を見る事が出來ませんでした。今ペテロが其その光を放つ能力ちからを有もちます。

　第四に、此この罪人つみびとに自分の罪を悟らせます。自分の鈍い事、また自分の危あぶない事を悟らせます。

　第五に、心を刺されし者を平安に導きます。

傾注そゝぎの結果

　ペテロは此この新しい能力ちからを以もって、十六節に於おいてヨエルの書ふみより引照を引きました。又其それによって神は唯今たゞいま、誰たれにも聖靈を注ぎ給ふ事を認いひあらはします。例へば婦人をんなでも聖靈を頂戴する事が出來ます。若者でも、或あるひは奴隷たる者でも聖靈を頂戴する事が出來ます。（十八節の『我わが僕しもべ』の意味は奴隷です）。さうですから、神は唯たゞ敬虔けいけんある人々に、又唯たゞ勢いきほひある人々、唯たゞ位くらゐの高い人々に許ばかり此この恩惠めぐみを與へ給ひません。誰たれでも、一番賤いやしい者でも、唯たゞ信じさへすれば、頂戴する事が出來ます。今ヱルサレムの人々の前に、其それが成就した事が見えます。今其その恩惠めぐみを頂戴した人々は、大槪たいがい輕蔑せられた無學なるガリラヤ人びとのみでありました。

　又此この引照によって、傾注そゝぎの結果を見ます。第一の結果は預言する事です、卽すなはち活いける能力ちからを以もって神の言ことばを宣傳のべつたへます（十七節）。第二は異象まぼろしです。卽すなはち明白あきらかに眞相を見ることを意味します。第三は夢、卽すなはち聖なる望のぞみの成就する事を見る事です。第四の結果は奇跡と休徵しるしです（十九節）。第五は神の審判さばきの確實たしかなる事です（廿節）。ペンテコステによって、神は必ず此世このよを審判さばき給ふことを確たしかめ給ひます。神は第一に恩惠めぐみを注そゝぎ、次に罪を審判さばき給ひます。ペンテコステと審判さばきの兩方は、神の奇くすしき御業みわざであります。第六は罪人つみびとが救はれる事であります（廿一節）。

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