第八十九篇  題目 三つの幸福



エズラびとエタンのをしへの歌

  1. われヱホバの憐憫あはれみをとこしへにうたはん われ口をもてヱホバの眞實まことをよろづにつげしらせん
  2. われいふ あはれみは永遠とこしへにたてらる なんぢはその眞實まことをかたく天にさだめたまはんと

  3. われわがえらびたるものと契約をむすびわがしもべダビデにちかひたり
  4. われなんぢのすゑをとこしへにかたうしなんぢの座位くらゐをたてて代々よゝにおよばしめん セラ
  5. ヱホバよもろもろの天はなんぢのくすしき事跡みわざをほめん なんぢの眞實まこともまたきよきもののつどひにてほめらるべし
  6. 蒼天おほぞらにてたれかヱホバにたぐふものあらんや 神の子のなかにたれかヱホバのごとき者あらんや
  7. 神はきよきものの公會こうくゎいのなかにてかしこむべきものなり その四周まはりにあるすべての者にまさりておそるべきものなり
  8. 萬軍ばんぐんの神ヱホバよヤハよなんぢのごとく大能たいのうあるものはたれぞや なんぢの眞實まことはなんぢをめぐりたり
  9. なんぢ海のあるゝををさめ そのなみのたちあがらんときはこれをしづめたまふなり
  10. なんぢラハブを殺されしもののごとく擊碎うちくだきおのれのあたどもを力あるみうでをもて打散うちちらしたまへり
  11. もろもろの天はなんぢのもの地もまたなんぢのものなり 世界とそのなかにみつるものとはなんぢのもとゐしたまへるなり
  12. 北と南はなんぢ造りたまへり タボル、ヘルモンはなんぢのみなによりてよろこびよばふ
  13. なんぢは大能たいのうのみうでをもちたまふ なんぢのみてはつよくなんぢのみぎのみてはたかし
  14. 義と公平はなんぢの寶座みくらのもとゐなり あはれみと眞實まこととは聖顏みかほのまへにあらはれゆく
  15. よろこびのおとをしるたみはさいはひなり ヱホバよかれらはみかほの光のなかをあゆめり
  16. かれらはみなによりて終日ひねもすよろこび なんぢの義によりて高くあげられたり
  17. かれらの力の榮光はなんぢなり なんぢめぐみによりてわれらのつのはたかくあげられん
  18. そはわれらのたてはヱホバにつきわれらの王はイスラエルの聖者せいじゃにつけり

  19. そのとき異象まぼろしをもてなんぢの聖徒せいとにつげたまはく われ佑助たすけをちからあるものにゆだねたり わがたみのなかより一人をえらびて高くあげたり
  20. われわがしもべダビデをえてこれにわが聖膏きよきあぶらをそゝげり
  21. わがはかれとともにかたくわがかひなはかれを强くせん
  22. あたかれをしへたぐることなし 惡の子かれを苦しむることなからん
  23. われかれの前にそのもろもろのてきをたふし彼をにくめるものをうた
  24. されどわが眞實まこととわが憐憫あはれみとはダビデとともにり わがによりてそのつのはたかくあげられん
  25. われまたかれの手を海のうへにおき そのみぎの手をかはのうへにおかん
  26. ダビデわれにむかひてなんぢはわが父わが神わがすくひの岩なりとよばん
  27. われまた彼をわが初子うひごとなし地の王たちのうちいともたかき者となさん
  28. われとこしへに憐憫あはれみをかれがためにたもち これとたてし契約はかはることなかるべし
  29. われまたそのすゑをとこしへにながらへ そのくらゐを天の日數ひかずのごとくながらへしめん
  30. もしその子わがのりをはなれ わが審判さばきにしたがひて步まず
  31. わが律法おきてをやぶりわが誡命いましめをまもらずば
  32. われつゑをもてかれらのとがをたゞしむちをもてその邪曲よこしまをたゞすべし
  33. されど彼よりわが憐憫あはれみをことごとくはとりさらず わが眞實まことをおとろへしむることなからん
  34. われおのれの契約をやぶらずおのれのくちびるよりいでしことをかへじ
  35. われさきにわがきよきをさして誓へり われダビデに虛偽いつはりをいはじ
  36. そのすゑはとこしへにつゞき その座位くらゐは日のごとくつねにわが前にあらん
  37. また月のごとく永遠とこしへにたてられん そらにある證人あかしびとはまことなり セラ

  38. されどその受膏者じゅかうじゃをとほざけてすてたまへり なんぢこれをいきどほりたまへり
  39. なんぢおのがしもべの契約をいみ そのかんむりをけがして地にまでおとし給へり
  40. またそのかきをことごとくたふし その保砦とりでをあれすたれしめたまへり
  41. その道をすぐるすべての者にかすめられ隣人となりびとにのゝしらる
  42. なんぢかれがてきのみぎの手をたかくあげそのもろもろのあたをよろこばしめたまへり
  43. なんぢかれのつるぎの刃をふりかえして戰鬪たゝかひにたつにへざらしめたまひき
  44. またその光輝かゞやきをけしその座位くらゐを地になげおとし
  45. その年若としわかき日をちゞめ恥をそのうへにおほひたまへり セラ
  46. ヱホバよかくて幾何時いくそのときをへたまふや 自己みづからをとこしへに隱したまふや 忿怒みいかりは火のもゆるごとくなるべきか
  47. ねがはくはわが時のいかにみぢかきかを思ひたまへ なんぢいたづらにすべての人の子をつくりたまはんや
  48. たれかいきて死をみず又おのがたましひを陰府よみより救ひうるものあらんや セラ
  49. しゅよなんぢが眞實まことをもてダビデに誓ひたまへる昔日むかしのあはれみはいづこにありや
  50. しゅよねがはくはなんぢのしもべのうくるそしりをみこゝろにとめたまへ
  51. ヱホバよなんぢのもろもろのあたはわれをそしりなんぢの受膏者じゅかうじゃのあしあとをそしれり われもろもろのたみのそしりをわが懷中ふところにいだく

  52. ヱホバは永遠とこしへにほむべきかな アーメン アーメン

 本篇に『憐憫あはれみ』又『眞實まこと』といふことば度々づ。
 一節 憐憫あはれみ 眞實まこと  |  八 節    眞實まこと  |  廿八節  憐憫あはれみ
 二節 憐憫あはれみ 眞實まこと  |  十四節 憐憫あはれみ 眞實まこと  |  卅三節  憐憫あはれみ 眞實まこと
 五節    眞實まこと  |  廿四節 憐憫あはれみ 眞實まこと  |  四十九節 憐憫あはれみ 眞實まこと
 ゆゑこの二つのことばは本篇において大切なることばなり。神は常にこの二つを一緖に表し給ふ。その憐憫あはれみゆゑに我等の罪を赦し、又その眞實まことによりて約束を必ず成就し給ふ。
▲本篇の大別
 (一〜卅七)過去における神の御業みわざを語る
 (卅八〜五十二)現在の狀態を述べ、又神の約束を論じて今恩惠めぐみそゝがれんことを要求す
▲十九〜廿七節を格別に注意して讀むべし。こゝにダビデの事記さるゝも救主すくひぬしすなはち主イエスの雛型と預言なり。以下の七つの要點を見よ。
一、救主すくひぬしは力ある者なり(十九中程)──『われ佑助たすけをちからあるものにゆだねたり』(マタイ廿八・十八對照)
二、救主すくひぬしたみなかより撰ばれたる者なり(十九をはり)──『わがたみのなかより一人をえらびて高くあげたり』(ヨハネ一・十八對照)
三、救主すくひぬしは神の聖旨みこゝろかなふ者なり(廿)──『われわがしもべ……をえて』(ヨハネ八・廿九對照)
四、救主すくひぬしは神よりあぶらそゝがれし者なり(廿をはり)──『これにわが聖膏きよきあぶらをそゝげり』(使徒十・三十八對照)
五、救主すくひぬしは神ともいまして强くし給へる者なり(廿一)──『わが手はかれとともに堅くわがかひなはかれを强くせん』(ヨハネ十四・十對照)
六、救主すくひぬしは神の初子うひごなり(廿七はじめ)──『われまた彼をわが初子うひごとなし』(ヨハネ一・十四對照)
七、救主すくひぬしは諸王の王なり(廿七をはり)──『地の王たちのうちいともたかき者となさん』(もくしろく十九・十六對照)



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