第十三篇　　題目　我目を明かにし給へ （三）

伶長うたのかみにうたはしめたるダビデのうた

1. あゝヱホバよ かくて幾何時いくそのときをへたまふや 汝なんぢとこしへに我われをわすれたまふや 聖顏みかほをかくしていくそのときを歴へたまふや
2. われ心のうちに終日ひねもすかなしみをいだき籌畵おもひはかりをたましひに用ひて幾何時いくそのときをふべきか わが仇あたはわがうへに崇あがめられて幾何時いくそのときをふべきか
3. わが神ヱホバよ我われをかへりみて答こたへをなしたまへ わが目をあきらかにしたまへ 恐らくはわれ死の睡ねぶりにつかん
4. おそらくはわが仇あたはいはん 我われかれに勝かてりと おそらくはわが敵わがうごかさるゝによりて喜ばん
5. されど我われはなんぢの憐憫あはれみによりたのみ わが心はなんぢの救すくひによりてよろこばん
6. ヱホバはゆたかに我われをあしらひたまひたれば われヱホバに對むかひてうたはん

▲本篇の分解
　（一、二）靈魂たましひの暗黑
　（三、四）信仰の祈禱いのり
　（五、六）其その答こたへを得
　故ゆゑに本篇に於おいて如何いかにして靈魂たましひの暗黑より光明くゎうみゃうに至るか其その道を示す。
▲一、二節に四度よたび『幾何時いくそのときを歴へたまふや』（或あるひは『‥‥‥歴ふべきか』）といふ神に對する問とひ記さる。是これ實に憐れむべき叫さけびなり、然されど信仰を抱く者の叫さけび也なり。若もし不信仰ならば現在の苦くるしみと困難は仕方なしと思ふ。然されど信仰あればこそ斯かく神に熱心に尋ぬる也なり。
▲本篇に記さるゝ苦くるしみに四よつの點あり。
一、神より言ことばを得ず（一中程）──『汝なんぢとこしへに我をわすれたまふや』
二、神との美うるはしき交まじはりなし（一終をはり）──『聖顏みかほをかくしていくそのときを歴へたまふや』
三、悲哀かなしみと思煩おもひわづらひ起おこる（二始はじめ）──『われ心のうちに終日ひねもすかなしみをいだき籌畵おもひはかりをたましひに用ひて幾何時いくそのときをふべきか』
四、罪に勝たる（二終をはり）──『わが仇あたはわがうへに崇められて幾何時いくそのときをふべきか』
▲以上は現在の事にして、其それが續けば次に以下の三みつの事起るべし。
一、靈的の眠ねむり（三）──『わが目をあきらかにしたまへ 恐らくはわれ死の睡ねぶりにつかん』
二、サタンの勝利（四始はじめ）──『おそらくはわが仇あたいはん 我かれに勝かてりと』
三、惡あしき者の喜悅よろこび（四終をはり）──『おそらくはわが敵わがうごかさるゝによりて喜ばん』
　以上三みつの『恐らくは』は恐るべきことを示す。
▲斯かく一、二節に於おいて現在の事を考へて我を助け給へと叫び、三、四節に於おいて未來の事を恐れて我を照てらし給へと祈る。然さらば神の光を受けし結果は何なんぞや。
一、信仰（五始はじめ）──『我はなんぢの憐憫あはれみによりたのみ』
二、歡喜よろこび（五終をはり）──『わが心はなんぢの救すくひによりてよろこばん』
三、豐ゆたかなる恩惠めぐみ（六始はじめ）──『ヱホバはゆたかに我をあしらひたまひたれば』
四、感謝（六終をはり）──『われヱホバに對むかひてうたはん』
▲一、二節と五、六節とを比較すれば、神は暗黑に居ゐたる靈魂たましひを遂つひに光明くゎうみゃうに導き給ひし事を見る（ペテロ前書二・九參照──『汝なんぢらを暗黑くらきより召して、己おのれの妙たへなる光に入れ給ひし者』）
▲三節の『わが目をあきらかにしたまへ』につき以下の六むつの引照を見よ。
一、創世記廿一・十九『神ハガルの目を開きたまひければ水の井ゐどあるを見 ゆきて革嚢かはぶくろに水を充みたし童兒わらべに飮のましめたり』──生命いのちの水を見る
二、民數記廿二・三十一『時にヱホバ、バラムの目を啓ひらきたまひければ彼ヱホバの使者つかひの途みちに立たちて劍つるぎを手に拔持ぬきもてるを見 身を鞠かゞめて俯伏ひれふしたるに』──神の怒いかりを見る
三、列王紀下六・十七『エリシヤ祈りて願ねがはくはヱホバかれの目を開きて見させたまへと言いひければヱホバその少者わかものの眼めを開きたまへり 彼すなはち見るに火の馬むまと火の車 山に盈みちてエリシャの四面まはりに在あり』──神の保護を見る
四、ルカ廿四・四十五『爰こゝに聖書を悟らしめんとて、彼らの心を開きて言ひ給ふ』──聖書の意味を知る
五、ルカ廿四・三十一『彼らの目開ひらけてイエスなるを認む』──キリスト御自身を見る
六、エペソ一・十八『汝らの心の眼めを明あきらかにし、神の召めしにかかはる望のぞみと聖徒にある神の嗣業しげふの榮光の富とみと……』──望のぞみを見る、即すなはち榮さかえを望み主の再臨の望のぞみ輝く

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