詩篇第一卷

第一篇  題目 幸福なる者



  1. あしきものの謀略はかりごとにあゆまず つみびとのみちにたゝず あざけるものの座にすわらぬ者はさいはひなり
  2. かゝる人はヱホバののりをよろこびてひるよるもこれをおもふ
  3. かゝる人は水流ながれのほとりにうゑしときにいたりて實をむすび 葉もまたしぼまざるごとく そのなすところ皆さかえん
  4. あしき人はしからず 風のふきさる粃糠もみがらのごとし
  5. さればあしきものは審判さばきにたへず罪人つみびとたゞしきもののつどひにたつことを得ざるなり
  6. そはヱホバはたゞしきもののみちをしりたまふ されどあしきもののみちはほろびん

 こは主イエスの山上の説敎と同一の大意にして、幸福さいはひなる者とは如何いかなる人か、又如何いかにして幸福さいはひなる者たり得るかについて學ぶなり。
 そもそも次のよつの篇は幸福さいはひなる者とは如何いかなる者かを示せり。
  第三十二篇一節──そのとがゆるされ、その罪をおほわれしものは幸福さいはひなり。
  第四十一篇一節──弱き人を顧みる者は幸福さいはひなり。
  第百十二篇一節──ヱホバを畏れてそのもろもろ誡命いましめをいたく喜ぶものは幸福さいはひなり。
  第一篇一節──しき者の謀略はかりごとに步まず、罪人つみびとみちにたゝず、あざける者の座にすわらぬ者は幸福さいはひなり。
 いま特に三十二篇のことばを見よ。く歌ひしダビデははなはだ富める者にしてかつ勝利者たる英雄なりしが、しか幸福さいはひなる者とはかゝる者にあらずして、そのとがゆるされその罪をおほはれし者こそ幸福さいはひなる者なれといへり。
 主イエスの山上の御説敎中に『幸福さいはひなる者』なることばたび述べられたる如く、詩篇のうちにも九あるひは十たび記さる。すなはち前記のものに加へて、三十四・八四十・四六十五・四八十四・五八十四・十二九十四・十二これなり。
▲第一篇の分解
 一、(一〜三)盈滿えいまんの生涯
 二、(四〜六)空虛の生涯
▲一節──聖別 Separation
 二節──業務 Occupation
 三節──繁榮 Prosperity
▲三節中に基督者クリスチャン生涯に必要なるみつの事記さる。
  根、  葉、  實
 (1) 根──隱れたる生涯。格別に恩惠めぐみを受くる力、又消化する力なり。樹はその根によりて土中にある營養えいやうを消化し吸収す。すなはち根は神のことばを消化する力なりこの力は隱れたる生涯において養はる。
 (2) 葉──心的經驗。心の輝き、あふるゝばかりの生命いのちなり。樹さかんなればそのしぼむ事なし。基督者クリスチャンは斷えずあふるゝばかりの生命いのちを得て、少しにても葉のしぼむ事あるべからず。その葉は愛と喜樂よろこびと平和を示す。
 (3) 實──ことば行爲おこなひすなはときに臨みてをりかなことばと動作をすなり。
 是等これらの事をよくあぢはひて、さかんなる心靈的生涯の秘密を學ぶべし。
▲二、三節に基督者クリスチャンなゝつの要點記さる。
 (1) 勉强家──『ヱホバののりを喜び』
 (2) 思索家──『ひるよるもこれをおもふ』
 (3) 滿足の人──『水流ながれのほとりに』
 (4) 力の人──『うゑし樹』(草の如きにあらず)
 (5) 實を結ぶ者──『ときにいたりて實を結び』
 (6) 生命いのちゆたかなる人──『葉もまたしぼまず』
 (7) さかんなる人──『そのなすところ皆榮えん』(あるひは成功の人)
 滿みたされたる人とはかゝる人をいふなり。特に聖言みことば滿みたさるゝ事に注意せよ。なほ以下の引照を見よ。
 コロサイ三・十六──滿みたされたる人の写眞
 同  十七──滿みたされたる結果
 同  十八以下──その結果が家庭にあらはる。
 エペソ五・十八より廿一──滿みたされたる人とその結果
 同  廿二以下──その結果が家庭にあらはる。
 以上の引照を對照して見るに聖言みことば滿みたさるゝ事と聖靈に滿みたさるゝ事とはほとんど同一の經驗の如し。ればこの詩第一篇は聖言みことば滿みたされたる人の写眞にして、また聖靈に滿みたされたる人、ペンテコステの經驗に達したる人の写眞なりとふべし。聖言みことば滿みたさるとは必ずしもたゞ多く讀むのいひあらず、常に聖言みことばを深く玩味してこれより靈のかてを得、これによりて力づけらるゝをふ。本篇二節に『ヱホバののりを喜びてひるよるもこれをおもふ』とあるはすなはこれなり。健全なる人は多量に食する人にあらず、よくこれを消化する人なりく常に聖言みことばを愛讀玩味する人こそ何時いつも聖靈に滿みたされる人なり。



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